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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)729号 判決 1988年4月28日

控訴人

高雄ビル開発株式会社

右代表者代表取締役

高橋幸雄

右訴訟代理人弁護士

鈴木悦郎

浅井俊雄

被控訴人

伊丹聖

外三四名

右被控訴人ら三五名訴訟代理人弁護士

上原洋允

田中義信

水田利裕

澤田隆

木村哲也

山下誠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実<省略>

理由

当裁判所も、被控訴人らの請求は正当として認容すべきであると判断するが、その理由は次に補正、付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

一原判決二枚目裏一一行目の「原本の存在と」を削除し、同一二行目の「被告」を「被控訴人」と訂正し、同一三行目の「同第六号証」の次に「の一ないし三五」を加え、同末行の「前記甲第一号証」から同三枚目表一三行目の「証拠はない。」までを「前記甲第一号証、成立に争いのない甲第三号証、原審証人石川博一の証言(第一回)により原本の存在と成立が認められる甲第四号証、原審(第一、二回)及び当審証人石川博一の証言、原審における被控訴人重野忠男本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨によれば、訴外私市は、昭和四九年三月二六日、訴外株式会社本山から、同会社所有の土地、建物等のほか、会員権預託金九億五〇〇〇万円を譲り受けるとともに、訴外アシリベツから同訴外会社の全株式(五〇〇〇株)を譲り受けたが、その際、訴外私市、同株式会社本山及び訴外アシリベツとの間において「訴外私市は、訴外株式会社本山及び訴外アシリベツに対してアシリベツカントリークラブ所属の既存会員の会員権行使について、その義務を履行し、同じく会員からの預かり金、保証金等の債務について、その履行について連帯して保証し、会員に対して一切迷惑をかけないこと。」とする約定をしたこと、控訴人は、昭和五七年四月二八日、訴外私市から訴外アシリベツの全株式(二万株)を譲り受けたが(右事実は当事者間に争いがない。)、その際、覚書(甲第一号証の原本)を作成し、「控訴人は、訴外私市の別記明細の会員預かり金、支払手形、預かり金及び未払金の債務及び一切の債権を引き継ぐものとする。」とする約定(以下「本件引継条項」という。)をし、右覚書には、被控訴人ら及び本件各預託金を含む会員の、入会日、氏名、預かり金を記載した遠隔地会員名簿が添付されていることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。右認定事実及び冒頭掲記の各証拠によれば、訴外私市は、訴外アシリベツとの間でアシリベツ会員のため、訴外アシリベツのアシリベツ会員に対する預託金返還債務につき連帯保証をするいわゆる第三者のための契約をし、また、控訴人は、訴外私市との間で、右会員のため、訴外私市の右預託金返還債務にかかる連帯保証債務を含む一切の債務を重畳的に引受けたものと認めるのが相当である。」と改める。

二同三枚目表一四行目の「しかして」から同一七行目の「考えるに」までを「ところで、控訴人は、右本件引継条項は、訴外アシリベツ及び訴外私市に対してのみ連帯保証債務の履行義務を負担する、いわゆる履行引受をしたものにすぎない旨主張するので判断するに、」と、同裏一行目の「後者の趣旨」を「控訴人主張の趣旨」と、同四行目の「いるところ、」を「いること、」と、同七、八行目の「と認められ、それ故に右約定においても、」を「ことが認められることに照らすと、右約定は、」と各改め、同一五行目の「証人」の前に「原審及び当審」を加える。

三同三枚目裏一六行目から一七行目の「採用し難く、ほかにもその認定を動かすに足る証拠はない。」を「採用し難い。もつとも、控訴人主張の札幌地方裁判所における訴訟事件において、訴外私市が、控訴人主張のとおり、預託金返還債務の連帯保証の事実を否認していたことは、当事者間に争いがなく、原本の存在及びその成立に争いのない乙第五、第六号証によれば、訴外私市は、右事実関係について履行の引受である旨主張していたことが認められるが、成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証、当審証人石川博一の証言によれば、訴外私市は右訴訟において当初預託金返還債務の連帯保証の事実を否認し、履行の引受を主張していたものの、証拠上これが維持できないものと判断し、順次右事件の原告に対し、預託金を訴外アシリベツを通じて返還し、一部原告の訴の取下げの結果、最終的に原告三〇名に対する遅延損害金等の残金の支払いについて、一八〇万円で訴訟上の和解をした(和解の成立については当事者間に争いがない。)ものであることが認められる。したがつて、右別件訴訟において、訴外私市が右否認、主張していたことをもつて、訴外私市が預託金返還債務の履行引受をしたものということはできず、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。」と改める。

四原判決四枚目表七行目の「を持参して」から一〇行目の「ひとまずおく。)で、右契約書」までを削除し、同一八行目、同裏二行目から三行目、同四行目、同五枚目表一三行目の各「差し替え」とあるを、いずれも「乙第一号証の契約書への押印及び甲第一号証の覚書の原本の交付」と改め、同四枚目表末行目の「証人」の前に「原審及び当審」を加え、同五枚目表八行目の「しかも仮に」から一一行目の「いいきれない。)」までを削除し、同末行の「証拠はない。」の次に「却つて、前掲甲第一号証、乙第一号証、原審及び当審証人石川博一(但し、原審は第一、二回)、同大場美智雄(但し、前記信用しない部分は除く)によれば、控訴人は、甲第一号証の覚書第二条に定める九億三〇〇〇万円を、右覚書作成の日である昭和五七年四月二八日頃、直接訴外私市に送金して支払つたが、ただ外形的には、控訴人が訴外アシリベツに右九億三〇〇〇万円を貸与し、訴外アシリベツが、右貸与を受けた金員をもつて、訴外アシリベツの訴外私市に対する債務の弁済として、これを支払つたという形式をとつたところから、その後控訴人が改めて訴外私市に対し、訴外アシリベツとの間の乙第一号証の契約書の作成を求めると共に、甲第一号証の原本の交付を求めたこと、一方、訴外私市は、当時控訴人との甲第一号証の契約による履行は完了しており、控訴人との間に右契約上の債権債務がなかつたところから、深く考えずに、控訴人の求めに応じて、乙第一号証の契約書に記名押印し、また、甲第一号証の覚書の原本を控訴人に交付したものであつて、前記債務引受契約を合意解約したものではないこと、以上の事実が認められる。してみれば、訴外私市が乙第一号証に記名押印し、また甲第一号証の覚書の原本を控訴人に交付したことをもつて、控訴人主張の合意解約の事実を認めることはできないものというべきである。」を加える。

五同五枚目裏「四」の冒頭に、「控訴人らが、前記二に認定の第三者のためにする契約について受益の意思表示をしたことは、本件各預託金の返還を求める本訴を提起したところから明らかである。」を加える。

(控訴人の当番における主張について)

控訴人は、控訴人の被控訴人らに対する預託金の支払いと、被控訴人らのアシリベツ会員の会員証書の返還は、同時履行の関係にある旨主張するか、これを認める証拠はないうえ、<証拠>によれば、アシリベツゴルフ場は、入会金を預託して入会するいわゆる預託金会員組織であり、その会員規約には、入会金は理事会の承認を得て譲渡することができる、入会金の返還又は譲渡した場合、本クラブの会員権は自然に消滅する旨定められている(六条)ことが認められるのであつて、それによれば、同クラブの会員権は、入会金の返還により消滅するものであり、また、<証拠>によれば、右ゴルフクラブの会員証書には、ゴルフクラブ会員権の内容及び指図文句の記載はないことが認められるから、右会員証書は、クラブ会員の権利を表章する有価証券ではない(最高裁昭和五二年(あ)第一七三二号同五五年一二月二二日第一小法廷決定・刑集三四巻七号七四七頁参照)と解すべきである。したがつて、会員証書を所持することのみをもつて、クラブの会員であることを主張し、クラブ会員の権利を行使することはできないから、会員証書の返還と預託金の返還とを同時履行とする必要性も認められない。控訴人の右主張は採用できない。

よつて、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用につき民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官宮地英雄 裁判官横山秀憲)

《参考・第一審判決理由》

第五 理由

一 原告らが、その主張の日に訴外アシリベツとの間で、その主張のゴルフクラブに入会する契約を締結のうえ、その主張の約定のもとに、それぞれ同社に対し、本件各預託金を支払ったことは、<証拠>により明らかである。

二 そこで被告が、原告らを含むアシリベツ会員のため、訴外アシリベツのアシリベツ会員に対する預託金返還債務につき、あるいは訴外私市の右預託金返還債務にかかる連帯保証債務につき、重畳的に債務引受をしたかを判断するに、

1 <証拠>によると、訴外私市は、昭和四九年三月二六日訴外株式会社本山(以下「訴外本山」という。)から、訴外アシリベツの全株式(当時五〇〇〇株)を譲り受けたが、その際訴外アシリベツとの間で、アシリベツ会員のため、同社のアシリベツ会員に対する預託金返還債務につき連帯保証をした(いわゆる第三者のためにする契約として)こと、被告は、昭和五七年四月二八日訴外私市から、訴外アシリベツの全株式(当時二万株)を譲り受けたが、その際、訴外私市及び訴外アシリベツとの間で、覚書(甲第一号証)を取り交わし、その覚書において、被告は、訴外私市の右預託金返還債務にかかる連帯保証債務(右覚書の当該条項の文言のうえでは、右預託金債務とされているが、右覚書の文面全体に照らすと、右条項は、表記の趣旨のものであると認められる。)を含む同社の一切の債務を引き継ぐ旨が約定された(以下、「本件引継条項」という。)ことがそれぞれ認められ、この認定を左右する証拠はない。

2 しかして本件引継条項の約定が、アシリベツ会員のため、いわゆる第三者のためにする契約としての債務引受をなす趣旨で結ばれたものか、それとも単に約定の相手方たる訴外私市に対してのみその履行義務を負担したいわゆる履行引受の趣旨で結ばれたものかを考えるに、前示1掲記の各証拠によると、右覚書においては、その内容を他に漏洩しないことが合意されていることが認められるので、この点からすると右約定が後者の趣旨で結ばれたとの疑いが一応生ずるけれども、しかし他面、右の各証拠によると、右覚書においては、訴外私市が、被告の拠出する対価を訴外アシリベツから受領することにより、同社の訴外私市に対する一切の債務を免除する旨が合意されているところ、訴外私市において、本件引継条項の約定をした目的は、訴外アシリベツの全株式を被告に譲渡し、かつ訴外アシリベツの一切の債務を免除したうえは、アシリベツ会員との債権債務の関係もすべて譲受人たる被告に引き継いで貰って、その関係から少なくとも事実上離脱することにあったと認められ、それ故に右約定においても、前記預託金債務にかかる保証債務の履行ではなくして、その債務の引き継ぎが約されたものとみることができ、しかも右の漏洩禁止の合意も、右覚書の全体の趣旨からすると、そのすべての条項を秘匿の対象としたものとは断定し得ない(ことにアシリベツ会員の権利・義務についての取り決め事項は、その取り決めに従った取り扱いをなすため、これを会員に公表することが予定されていたとみられる。)のであって、これらを総合して考えると、本件引継条項は、被告が、アシリベツ会員のため、これに対する預託金返還債務にかかる訴外私市の連帯保証債務を引受ける趣旨で結ばれたものと解することができ、証人大場美智雄の証言のうち右認定に反する部分は、前示1掲記の各証拠に照らして直ちに採用し難く、ほかにもその認定を動かすに足る証拠はない。

三 次いで右債務引受の約定が、のちに合意解除されたかを検討するに、

1 <証拠>によると、被告(札幌市中央区所在)の常務取締役である大場は、昭和五七年五月中旬ころ訴外私市(大阪府交野市私市所在)を訪ね、その常務取締役である訴外石川博一(以下、「石川」という。)と会見して、予め準備してきた訴外私市と訴外アシリベツ間の契約書(乙第一号証。但し、右準備されたものは、訴外アシリベツにつき、すでに名下に押印済で、訴外私市につき、その押印前のもの。)を持参して、これと前記覚書とを差し替える趣旨(これが、従前の約定をすべて解除して新たな合意をなす趣旨のものか、それとも、従前の約定に実体上変更を及ぼすことなく、単に書面を交換するだけの趣旨のものなのかなどの点については、ひとまずおく。)で、右契約書への押印を求めたこと、右契約書の内容は、概ね、前記覚書のうち、本件引継条項を含む被告と訴外私市との間及び被告と訴外アシリベツの間の条項を除外し、訴外私市と訴外アシリベツの間の条項のみを、これに若干の修正を加えて残したものとなっていること、石川は、訴外私市の代表取締役浅川吉男(以下、「浅川」という。)にこれを示して、その場でその内容を検討のうえ、その押印を得て、これを待機していた大場に交付し、なおその際、その求めにより、保管していた前記覚書をも同人に交付したことをそれぞれ認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2 しかして右差し替えがいかなる趣旨でなされたかについて、証人大場美智雄は、これは本件引継条項を含む、前記覚書における被告に関する約定をすべて合意解除する趣旨でなされたもので、予め被告は訴外私市に対し、電話により、前記差し替え前にその旨の申し入れをなして了解を得ていたという趣旨の供述をするが、これに対し証人石川博一(第一、二回)は、右差し替えは、大場から、前記訪問の際、被告の税務対策のために使用する必要ありとして協力を依頼されたため、訴外私市はそれに使用させる趣旨で前記契約書に押印したに過ぎず、また前記覚書を大場に交付したのは、同人から暫く貸与するよういわれて深く考えずにこれを渡したに過ぎないものであり、なお被告に対し、訴外私市が右の大場証言にあるような事前了解をしたこともなく、したがって、これらは、前記覚書における本件引継条項を含む被告と訴外私市との間の約定に対し、何らの消長を及ぼすものではないという趣旨を供述する。

確かに、訴外私市の代表取締役である浅川が前記契約書に押印し、またその常務取締役である石川が、前記覚書を被告の常務取締役である大場に交付した点は、証人大場美智雄の右証言を支持する事情とみる余地があるけれども、しかし他面、訴外私市において、本件引継条項の約定をした目的は、前項2に認定したとおり、アシリベツ会員との債権債務の関係をすべて譲受人たる被告に引き継いで貰って、その関係から少なくとも事実上離脱することにあったものとみられるのに、その後特に事情の変更もなく、右条項を不都合とする特段の事情もみられないのに、訴外私市が、その約定を合意解除することにたやすく応じたとは考え難いところであり、また前記契約書は、訴外私市と訴外アシリベツの間の約定のみを残した内容のものであることは前示1に認定したとおりであるところ、仮にこれをもって前記覚書における訴外私市と被告との間の約定をも解消するのであれば、それが双方にとり極めて重要な事項であるとみられ、しかも前記契約書を持参した者が被告の常務取締役であることは前示1に認定したとおりであるから、その際、被告と訴外私市の間に、この点を明らかにした書面が作成されて然るべきものと考えられるのに、そのような書面が作成されたことを窺わせる証拠は存しないし、しかも仮に前記覚書における約定をすべて失効させるのであるなら、その場でこれを破棄すれば足りるとみられるのに、前記のとおり、これが石川から大場に交付されている(したがってこれを単に貸与したという右の石川証言も、あながち不自然とはいいきれない。)のであって、これらの諸点を総合すると、被告の常務取締役である大場が、いかなる意図のもとに被告の常務取締役である石川に対し右差し替えを求めたかはともかくとして、少なくとも訴外私市の代表取締役である浅川や常務取締役である石川が、前記契約書に押印し、あるいは前記覚書を交付したことをもって、前記覚書における本件引継条項を含む訴外私市と被告との間の約定を解除することに応じたものと推定することは困難であり、その限りにおいて、証人大場美智雄の前記証言は採用し難く、ほかにも右合意解除の事実を認めるに足る証拠はない。

四 以上によれば、被告は、訴外私市との間で合意した前記覚書における本件引継条項による債務引受の約定にもとづき、本訴をもって受益の意思表示をした原告らに対し、訴外アシリベツの原告らに対する預託金返還債務についての保証債務の履行として、別表金額欄記載の本件各預託金の返還とこれに対する訴状送達の翌日である別表起算日欄記載の日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

よって原告らの本訴請求をすべて相当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官藤井一男)

別紙当事者目録<省略>

別表<省略>

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